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改代町と小説

 ◎ 鼠小僧次郎吉(芥川龍之介)

http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/108_15149.html

「さうか。さう聞きや無理は無えの。いや、鼠小僧と云ふ野郎も、改代町(かいだいまち)の裸松(はだかまつ)が贔屓(ひいき)になつてくれようとは、夢にも思つちや居無えだらう。思へば冥加(みやうが)な盗つ人だ。」

(高橋 注) ここでは、「かいだいまち」とルビがあります


 

 

◎ 『鼠小僧次郎吉』~其の五十六「世を忍ぶ次郎吉小花の侘び住い」の巻
がってん引水
http://wacca.tv/m/10535


次郎吉と小花は改代町へ家を借りて世を忍ぶ身となる。

(高橋 注) この音声を聞くと「かいたいまち」と言っています。


 

◎ 半七捕物帳 かむろ蛇(岡本綺堂)

http://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/981_15032.html

底本:「時代推理小説 半七捕物帳(五)」光文社文庫、光文社

「年造の寺はどこだね」
「改代町(かいだいまち)の万養寺です」
「年造の菩提所かえ」
「いいえ。年さんのお寺は無いとかいうことで、大さんが自分の知っているお寺へ納めて貰ったのです」
「いや、ありがとう。わたし達が訊きに来たことは、誰にも内証にして置いてくんねえ」
 表へ出てみると、関口屋は女房の初七日(しょなのか)も過ぎたのであるが、コロリ患者を続いて出したので、近所へ遠慮の意味もあるのか、大戸を半分おろして商売を休んでいるらしかった。半七は気の毒に思った。
 改代町は牛込であるが、ここから遠くない。二人は江戸川の石切橋を渡って、改代町へ行き着くと、ここらは俗に四軒寺町と呼ばれて、四軒の寺のほかに、古着屋の多い町である。寺々のうしろは草原で、又そのうしろには一面の田畑が広がっている。草原には丈(たけ)の高い芒(すすき)がおい茂って、その白い穂が青空の下に遠くなびいていた。どこかで鵙(もず)の啼く声もきこえた。
 二人は万養寺の前に立った。あまり大きい寺ではないが、内福であるという噂を近所で聞いた。「寺は困るな」と、半七はつぶやいた。「年造は幽霊じゃあねえ、確かにほんものらしい。大吉と一緒にここに潜(もぐ)り込んでいるのだろうと思うが、迂濶に踏み込むわけにも行かねえ。又ぞろ寺社へ渡りを付けるか。うるせえな」
 この時、うしろの草原で犬の吠える声が頻りにきこえるので、二人は顔を見あわせた。半七は先に立って裏手へまわると、草原はなかなか広く、その芒の奥で幾匹かの野良犬が吠えたけっている。二人は犬の声をしるべに、高い芒をかき分けて行くと、その行く手からも芒をがさがさと潜(くぐ)って来る者がある。たがいに先が見えないので、殆ど出合いがしらに眼と眼が向かい合ったとき、善八は俄かに半七の袂(たもと)をひいた。
「大吉ですよ」
 相手も不意の出合いに慌てたらしく、身をひるがえして逃げようとするのを、善八はすぐに追いかけると、彼は持っている鍬(くわ)をふり上げて、真向(まっこう)へ撃ち込んで来た。善八はあやうく身をかわすと、芒の中から又一人、鋤(すき)を持って撃って来る者があった。
「幾人もいるぞ、気をつけろ」
 半七も善八に注意しながら、鋤を持つ男に飛びかかった。あとの敵の方が手剛(てごわ)いと見たからである。何分にも芒が深いので、それが眼口(めくち)を打ち、手足に絡んで、思うように働くことが出来ない。善八も同様で、どうにかこうにか大吉の腕をつかんだが、芒の葉に妨げられて眼を明いていることも出来なかった。その不便は敵も同様であったが、この場合には弱い者の方に都合がよい。芒の邪魔を利用して、大吉らは必死に抵抗した。
 四、五匹の野良犬も駈け寄った。かれらは半七らの味方をするように、大吉らを取り巻いて、吠え付き、飛び付いた。鋤を持つ男は半七を突き放して、一間ほども逃げ延びたかと思うと、芒の根につまずいて倒れた。半七は折り重なって組み伏せた。
 大吉は案外に激しく抵抗したが、これもやがて善八の膝の下に倒れた。芒の葉に切られて、敵も味方も、頬や手足に幾ヵ所の擦(かす)り疵を負った。二人が早縄をかけて立ち上がる時、犬は半七らを導くように吠えて走るので、芒のあいだを付いてゆくと、そこには芒が倒れて乱れているひと坪ほどの空地が見いだされた。新らしく掘り返された土は柔らかく、そこに何物をか埋めてあるように見られたので、大吉の鍬をとって掘り起こすと、土の下には若い大工の死骸が横たわっていた。

(高橋 注) 著作権が消滅した青空文庫ですから、長文の引用も大丈夫でしょう。

 


 

 

◎大菩薩峠(中里介山)

http://mobile.seisyun.net/cgi/bgate/000283__4341_14293/3523/

「そこで、一通りそのお嬢さんの脈を診(み)て上げて帰りに、先生一杯なんて、よけいなことをその家の両親共がすすめるもんだから、ついいい気持になっちまって、それから牛込の改代町まで来ると、出逢頭に子供を一人、蹴飛ばしちまったんだね。ところが、その子供の親父(おやじ)が怒ること、怒ること、むきになって怒るから、こっちも相手が悪いと思って、平あやまりにあやまったが、先方がどうしてもきかねえ。わしも困っていると、いいあんばいに仲裁が出ました。その仲裁人が、子供の親父をなだめて言うことには、お父さん、足で蹴られたぐらいは辛抱しな、この人の手にかかってみたがよい、生きた者は一人もない――だってさ。そこでおやじも、おぞけをふるって逃げて行った姿がおかしかったよ」

 

◎ 日本史怖くて不思議な出来事(中江/克己)

http://books.google.co.jp/books?id=3dNiEvOCDlwC&pg=PT217&lpg=PT217&dq=%E6%94%B9%E4%BB%A3%E7%94%BA%E3%80%80%E3%81%8B%E3%81%BE%E3%81%A9&source=web&ots=EjuBXNKNrQ&sig=31sj4YvHS9UOhyihms45mfTc5PY&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=2&ct=result&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=2&ct=result&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=2&ct=result

坊主が住む奇怪なかまど江戸後期の話である。改代町(東京都新宿区)に、一人の日雇が ...